近年における日本経済は、多少の起伏を示しながらも、一般的には長期にわたる成長が期待され、これとともに国民生活も社会文化も向上しつつある。この成長を堅実に永続させるために最も要請されることは、青少年の育成と教育の振興である。
しかるに、現在の実情をみると優秀な素質と確固たる素志をもちながらも、不遇にして向学の機会を失う青少年が少なくない。また、技術革新に伴い研究分野がますます拡大充実せらるべきに拘らず、その研究費等が不如意に陥りがちである。このような点が是正されなければ、文化国家としての正常な成長はあり得ないであろう。
株式会社竹中工務店は以上の諸点を幾分なりとも是正したい念願をもって、この財団法人の設立を発意し、金2億円を寄付することになったものである。
従ってこの法人は、その事業を通じて青少年の育成と技術の奨励を図り、もって社会に寄与することを、設立の趣旨とするものである。
(昭和36年12月20日設立・財団法人竹中育英会の趣意書より)
本会の設立は、創設者であり初代理事長である竹中藤右衛門氏の意志によるものである。
昭和34年(1959)、当時、竹中工務店相談役であった藤右衛門氏が、父祖の事業を継承して満60年を迎えたとき、“永い間、建築一筋に生き抜くことができたのは、竹中の努力精進だけによるものではない。一般社会から、理解され信頼され、暖く見守って頂いたからである。このような恩恵に感謝せずにはおれない。何とかして、世の中のためになる仕事がしたい。”と述懐した。この「世のため人のために利益を社会に還元したい」という氏の強い理念が、本会設立の契機となったものである。